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脳内補完のキャラを時の彼方へ葬る&還して弔うライナーツノート(言い訳)です。
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「遂にお前も逝った……か」
彼女が埋葬された墓に立ち、ナルセスは小さくため息をつく。
波瀾万丈な人生を駆け抜けて来たというのに死に顔は心地よい夢を見ながら眠っているように、穏やかなものだった。

日に日に弱って行くのは見ていて分かった。
よく楽しんでいた晩酌はもちろん、大好きだったお茶すら口にする事すら出来なくなっていたのだから。
「全く……順番は守れ。
そういう私も遠くないうちにそっちへ逝く事になりそうだが」
さわさわと音を立てて、心地よいそよ風に抱かれる彼女の墓石に今日も城下の花屋で買って来た花を一輪、手向ける。

竜胆…儚げで清らかな花の色は生前の彼女を彷彿させる。特に、彼女との交流が多くなったシャルンホルストへの移住。その時の彼女は瞳にたくさんの哀しみを秘めていた。その哀しみは時に溢れ、眠る彼女に捨て去った故郷の情景を見せ、彼女を悲しませた。
 それでも、彼女は捨て去って来た過去では泣く、共にシャルンホルストへ来た孫と幸せを見つける事を求めた。彼が成長するに連れて、彼女の瞳から哀しみの色は消える事はなくも、徐々に薄れて行った。こっちが見ていて照れ臭くなるぐらいの祖母と孫はきっと、幸せな景色を手に入れるだろうとナルセス自身、信じていた。
 「あの子は……どうしているのかしらね」
彼女の名を継いだ孫娘の家庭教師をする合間、床に伏せる彼女を見舞うと彼女はそう静かに問いかける。自分に聞いても分からないと分かっていても、他の者たちには言えない事なのだ。だが、決して彼の名前を呼ばなかった。

そよ風に揺れる花を見つめながら、在りし日の彼女の姿を思い浮かべる。そして、風に吹かれ、花びらの揺れる花を見つめ
「……ひどいな」
ナルセスは自嘲する。
もうこの世に亡い人なのに、そんな彼女への想いを花言葉に託して、色違いの竜胆を手向けている自分。彼女の訃報を聞き、その光景を目の当たりにした時に、自分はそれに初めて気付いた。
「今頃、夫と子どもたちとあっちで幸せにしているというのに」
それでも、少しでも伝えられればいいと毎日通ってしまう。そんな自分を自分はこういう性格だから、とお得意の皮肉で評する。
「明日は菫色にするか」
彼女の墓石へ片手を軽く掲げると、彼は屋敷へと戻って行く。そんな彼を彼女のアニマが見送るように、彼によって手向けられた竜胆の花はふわりと舞い上がった。
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